みなさん、兼用住宅という言葉をご存じですか?
兼用住宅とは、住宅としての居住空間と事業活動のためのスペースとを一つの建物の中で兼ねている住宅のことをいいます。
商店街の八百屋さんなどが典型例で、1階で野菜を販売し、2階に住んでいるという形態はなんとなく想像できるでしょう。八百屋さんの例のように兼用住宅の仕組み自体は古くからあったのですが、昨今の社会状況も相まって、いま改めて兼用住宅に注目が集まっています。
今回はその社会的背景と兼用住宅を購入することのメリット、デメリットについてお伝えいたします。
尚、よく似た建物形態として併用住宅がありますが、兼用住宅との一番の違いは建物内を行き来できるかどうかという点です。行き来できる建物形態が兼用住宅、行き来できないものが併用住宅です。それ以外はほとんど一緒なのですが、併用住宅の場合は、居住空間と事業活動のためのスペースの入り口が分かれていることもあり、事業用スペースだけを単独で貸し出しすることができるというメリットがある反面、建築できる地域が限定されるというデメリットも存在します。
購入の際は対象となるエリアの用途地域や日常の動線、将来的に賃貸するかどうかといった要素を考え、兼用住宅がいいか併用住宅がいいかを判断するといいと思います。
冒頭で述べた通り、現在兼用住宅に注目が集まっています。
仕組み自体は以前から存在する兼用住宅ですが、なぜいま注目が集まっているのか。ここではその理由を解説していきたいと思います。
昨今、私たちをとりまく社会環境は大きく変化しています。
コロナ渦に伴って、リモートワークが普及したことやライフワークバランスを重視する傾向が高まったことなど、改めて自分の人生や働き方について考えた人は多いと思います。
毎日会社へ出勤して週5日間働く、という今まで普通とされていた働き方に疑問を抱いた人も多くいたのではないでしょうか。
本当に豊な生活とは何なのか。
多くの人が抱いたその問いに対する答えのひとつとして、昨今、自分の特技や趣味を活かした事業を始める人が増えています。
これらの事業は、規模は小さく利益は多くはありませんが、反面負担も少ないというスモールビジネス形態のものが多く、例えばお菓子の製造や販売、モノづくりの工房、特技を活かした教室などが実例として挙げられます。
注目すべきは、事業の目的が多く稼ぐことから自分らしいライフスタイルを実現する、ということに変わっているということ。
私のまわりの新規開業した人は、皆さんいい意味で無理せず、自分が興味関心があることで生計を立てていくことを重視しているように思います。
一方、インターネット技術の進歩やSNSの普及に伴って商いの形も大きく変わりつつあります。
インスタで見つけた商品をお店に行くことなくWEB上で購入したり、お気に入りのお店をSNS上で見つけたりと、商品やサービスの発見、購入はより手軽になり、情報を発信する側も個性や魅力を多くの人へ費用をかけずに直接発信できるようになりました。
商品やサービスの魅力があれば、どこにあるお店でもインターネット上で商品は売れるし、ちょっと不自由なところでも、SNS上でお店を発見してもらえます。
今まで以上に独自の魅力や特徴を設定することの重要性は増しますが、費用をかけて大々的に広告をうったり、中心地の家賃が高いエリアに無理して出店する必要性は薄れました。
近年これらの社会的背景から、無理なく始めるスモールビジネスの場として、費用を抑えて自宅で開業する兼用住宅のニーズが高まってきています。
ここで兼用住宅を購入することのメリット、デメリットについて考えてみたいと思います。
購入するメリット
①住宅ローンが利用できる
通常事業用の建物の購入には事業用のローンを組んで借り入れをする必要がありますが、兼用住宅は主な用途が住宅となる為、購入にあたって住宅ローンを利用することが可能になります。
住宅ローンは不動産を担保にすることで、何千万円という大きな金額を長期に渡ってかつ、低金利で借りることができる特殊なローンであり、事業用ローンと比較すると事業者の経済的負担は大きく減少します。
尚、事業スペースも合わせて住宅ローンが設定可能かは金融機関ごとに判断が異なりますので、購入を検討の際は事前に金融機関へ相談に行かれることをお勧めします。
②住宅地にも建築可能
日本の多くの地域では、適正な土地利用を行い、都市の持続的な発展を図ることを目的として都市計画法による用途の制限が設けられています。これを用途地域といい、その用途地域で許可された形態以外の運用は法律で禁止されています。
主に低層戸建住宅としての利用を促進する為にある第一種低層住居専用地域では、日々の生活に悪影響を与える可能性がある工場や商業施設の設置が禁止されたり、高さの制限があったりと利用用途に多くの制限がかかっています。
このエリアには良好な住環境が整えられ、住むにはもってこいなのですが、基本的に店舗を建築することはできません。住宅地にコンビニなどの商業施設が少ないのはこの為です。
しかし、この第一種低層住居専用地域においても一定の条件をクリアした兼用住宅であれば特例的に店舗の開設が可能です。
以下で具体的な条件みていきましょう。
兼用住宅として認められるための条件は主に以下の3つです。
・事業用スペースが50㎡以下であること
・建物の延べ床面積の50%未満であること
・住居スペースと事業スペースを建物内で行き来できること
加えて事業内容や騒音を発生させる可能性がある機器の使用に制限がかかったりと出店にあたってはクリアすべき点がありますが、これらをクリアすることで良好な住環境を確保しながら、自身の商いをスタートさせることができるということは大きなメリットですね。
ただいうまでもありませんが、法律で認められていることと近隣への配慮は別の話ですので、近隣住民の方へ迷惑をかけるようなことが無いような配慮は当然に必要となります。
③自分の望む店舗をデザインできる
自宅として購入or建築する兼用住宅は、自分の所有物である為に内装や外観の変更が容易です。こだわりの空間を最初から最後まで自らつくることができるというのはうれしいポイントではないでしょうか。
また、自己の所有であれば一般的な住宅の一部に事業用の区画を設けることも可能です。もともと兼用住宅として利用されている建物はその総数が少ないため、一般的な戸建住宅を購入し、一部を改装し兼用住宅とすることが可能な点も購入ならではのメリットだといえます。
さらに、兼用住宅を利用し事業を行うことで以下のようなメリットも存在します。
購入するデメリット
一方、兼用住宅を購入するにあたってのデメリットも存在します。
①資金の調達方法
兼用住宅を購入する場合、住宅と事業活動スペースを兼用するため、一般的な住宅よりも購入費用が高くなる場合があります。また、金融機関によっては住居と事業活動スペースの両方に対応した融資制度が用意されていないこともあり、全てを融資でまかなうことが難しい場合もあります。その場合、事業に必要な設備は別に融資を申し込むか、融資を使わず自身で用意する必要があります。
②遵法性の確保
制限が厳しい第一種低層住居専用地域でも開業が可能な兼用住宅ですが、開業にあたっては事業用区画の面積や事業内容等に対してある一定の制限を受けます。購入前に、自分が計画している事業がこのエリアや建物で開業可能かどうかを専門家へ相談することをお勧めします。
③管理運用上のリスク
兼用住宅を購入する場合、住居と事業活動スペースを同時に管理する必要があり、管理運用上のリスクが高くなる可能性があります。例えば、事業活動スペースにおいてトラブルが起きた場合、その影響が住居スペースに及ぶ可能性があるため、管理には注意が必要です。
③不要となった場合の取り扱い
長い期間で考えたときに何らかの事情で事業の継続が困難になり、事業用の区画が不要となることもあると思います。その場合は、事業用のスペースが使い道がない空間となってしまうリスクがあります。兼用住宅の場合、その構造上第三者へ貸し出すことは難しいので、そのまま倉庫等に使用するか、居室へ改装するということになります。将来、事業を畳む可能性がある場合は、その際にどいった対策があるか考えておくことも必要でしょう。
最後に、購入、賃貸にかかわらず兼用住宅を利用することのメリットを紹介します。尚、デメリットに関しては購入する場合のデメリットに類似しますので割愛させていただきます。
経費の削減: 自宅の一部を事務所や店舗として使用することで、別途事務所や店舗を借りる必要がなくなり、家賃や光熱費などの経費を削減できます。
時間の節約: 自宅で商売を行うことで、通勤時間が省け、その分の時間を自らの事業に充てることができます。また、自宅で働くことで、家族との時間を増やすことができるため、適正なワークライフバランスを取りやすくなります。
自由度の高さ: 自宅で商売を行うことで自分自身の好きな時間帯やペースで仕事を進めることができます。子育て世代であれば育児をしながら商いを行うことができるというのは大きなメリットではないでしょうか。
いかがでしょうか。
自宅に住みながらその一部を使い開業する兼用住宅の魅力を感じていただけたでしょうか。
まだ認知の少ない兼用住宅ですが、コロナ禍を経て変化した多様な価値観や働き方によってそのニーズが高まってきています。
中心地のガラス張りのお店も素敵ですが、住宅地の中にポツンとあるパン屋さんもまた素敵です。
なお、購入には建築や法律などの専門的な知識が必要となりますので、購入を検討される場合は事前に専門家へ相談することをおすすめします。
まだ認知の少ない兼用住宅という形態が、これから多くの方に知られ、その選択肢となっていくことを期待しています。